- cpp23[meta cpp]
C++20では、いわゆる契約プログラミングがサポートされる予定であったが、C++23以降へ延期された。
以下の内容はC++20で予定されていた仕様に基づいており、今後変わる可能性が高い。
#include <iostream>
#include <cmath>
double sqrt_checked(double x)
[[expects: x > 0]] // 引数に対する事前条件
[[ensures r: r > 0]] // 戻り値に対する事後条件
{
return std::sqrt(x);
}
int main()
{
double x;
std::cin >> x;
[[assert: x > 0]]; // アサーション
double y = sqrt_checked(x);
std::cout << y << '\n';
}契約は属性として記述する。C++20では、次の3つの契約属性が導入された:
[[expect: 述語]]:関数に入る際に期待する事前条件を定義する。[[ensure: 述語]]:関数から戻る際に期待する事後条件を定義する。[[assert: 述語]]:アサーションを定義する。
expectおよびensure属性の述語は、関数の最初の式文と同じセマンティクスで評価される。 より詳細に言えば、仮引数は見えるがローカル変数は見えない。
述語が例外を送出すると、std::terminate()関数を呼び出してプログラムを終了させる。
述語が副作用を持つ場合、動作は未定義である。例えば、グローバル変数の変更、volatile変数の参照、変数を変更する可能性のある関数の呼び出しなどが該当する。
// P0542R5より引用
int x;
volatile int y;
void f(int n) [[expects: n>x]]; // OK
void g(int n) [[expects: n>x++]]; // Undefined behavior
void h(int n) [[expects: n++>0]]; // Undefined behavior
void j() {
int n=3;
[[assert: ++n>3]]; // Undefined behavior
//...
}
void k() [[expects: y>0]]; // Undefined behavior// P0542R5より引用
bool might_increment(int & x);
void f(int n) [[expects: might_increment(n)]]; // Undefined behavior
bool is_valid(int x) {
std::cerr << "checking x\n";
return x>0;
}
void g(int n) [[expects: is_valid(n)]]; // Undefined behaviorただし、関数の中で閉じている局所的な副作用は問題ない。
// P0542R5より引用
bool is_valid(int x) {
int a=1;
while (a<x) {
if (x % a == 0) return true;
a++;
}
return false;
}
void f(int n) [[expects: is_valid(x)]]契約属性には契約レベルを指定できる。
[[契約属性名 契約レベル: 述語]]契約レベルによって契約がチェックされる条件が異なる。
契約レベルには次の3つがある:
default: ビルドレベルがoffでなければ常にチェックされる。契約レベルを省略した場合はdefaultとなる。audit: ビルドレベルがauditの場合のみチェックされる。パフォーマンスへの影響が大きい契約をauditにして、普段はチェックしないでおくことができる。axiom: チェックされない。主な用途は書式の定まったコメントとして使うことである。
void f(int x)
[[expects: x>0]]
[[expects audit: is_prime(x)]];C++20では、プログラムのコンパイルは次の3つのうちどれかのビルドレベルで行われる:
off: 契約はチェックされない。default: 契約レベルがdefaultの契約がチェックされる。ビルドレベルが明示されない場合はdefaultとなる。audit: 契約レベルがdefaultまたはauditの契約がチェックされる。
ビルドレベルを指定する方法は処理系定義である。ただし、ソースコード上で指定する方法は提供されない。
チェックされない契約が評価されるかは未規定である。falseに評価される場合の動作は未定義である。
違反ハンドラーは void(const std::contract_violation&) という型を持つ関数である(処理系によってはさらにnoexceptが指定される)。
契約がチェックされ、しかもfalseに評価されたとき、違反ハンドラーが実行される。
プログラムは違反継続モードoffまたはonでコンパイルされる。
off(デフォルト): 違反ハンドラーの実行後、std::terminate()関数を呼び出してプログラムを終了させる。on: 違反ハンドラーの実行後、プログラムはそのまま続行する。
違反ハンドラーおよび違反継続モードを指定する方法は処理系定義である。
[[expect: 述語]]この属性は関数宣言の関数型に対して指定する。
述語では、関数の引数を参照できる。
void f(int x)
[[expects: x>0]]expect属性の述語は関数の本体を評価する直前に評価される。関数の本体には、関数tryブロックおよびコンストラクタのメンバー初期化子を含む。
1つの関数に複数のexpect属性がある場合、評価は記述した順になる。
[[ensure: 述語]]
[[ensure 識別子: 述語]]この属性は関数宣言の関数型に対して指定する。
2番目の書式では、指定した識別子で関数の戻り値を参照できる。ただし、C++20の時点では構造化束縛はできない。
// P0542R5より引用
std::tuple f()
[[ensures [x,y]: x>0 && y.size()>0]]; // エラー
std::tuple f()
[[ensures r: get<0>(r)>0 && get<1>(r).size()>0]]; // OKensure属性の述語は関数から戻る直前に評価される。このとき、ローカル変数や一時オブジェクトの寿命はすでに尽きている。
1つの関数に複数のensure属性がある場合、評価は記述した順になる。
[[assert: 述語]]この属性は空文;に対して指定する。結果として、文のように書くことができる。
[[assert: x > 0]];assert属性の述語は適用先の空文と共に評価される。
あるクラス内で契約されている関数がそのクラスを継承した別のクラスでオーバーライドされる場合、オーバーライドした関数は少なくとも元の関数になされた契約を遵守しなければならない。より詳細には
- 事前条件:継承元と同じかより弱い(緩い)ものである必要がある
- 事後条件:継承元と同じかより強い(厳しい)ものである必要がある
これを満たしていない場合、オーバーライドした関数の利用は危険なものになる。
この原則はAssertion Redeclaration ruleと呼ばれる。
C++における契約と継承においてもこの原則に従う。
契約条件をもつ関数をオーバーライドするとき、オーバーライドした関数にはオーバーライドされた関数と同じ契約条件を指定しなければならない。
(この時、その条件が異なっていたとしても対応する契約条件が同じ値(true or false)に評価されるならば、診断されない。)
そのような契約条件の指定がされていない場合、オーバーライドされた関数が持つ契約条件が指定されているとみなされる。
すなわち、C++における契約の継承時はAssertion Redeclaration ruleを確実に満たすために常に同じ契約を派生先に要求する。
事前条件を緩くしたり、事後条件を厳しくすることは認められない。
struct base {
virtual double f(int n)
[[expects: n > 0]]
[[ensures r: r > 0.0]] = 0;
virtual int g(int n)
[[expects: n < 0]]
[[ensures r: r < 0]] = 0;
};
struct derived : base {
//明示的にbase::f()と同じ契約をする
double f(int n) override
[[expects: n > 0]]
[[ensures r: r > 0.0]]
{
return 1;
}
//暗黙的にbase::g()と同じ契約がされているとみなされる
int g(int n) override {
return -1;
}
}従来は実行時のアサーションとしてはassertマクロがあるのみだった。
契約属性はアサーションを含む契約を記述する、マクロを用いない新たな方法として導入された。
特に、戻り値に対する契約は従来のassertマクロでは簡潔に書くことができなかった。
なお、assertマクロは関数形式のマクロなので、[[assert]]属性を置換してしまうことはない。